バイポーラー・ピアニスト

おれの両親は音大を卒業していて、親父は中学校の教員を、お袋は近所の子を自宅に集めてピアノを教えてた。自宅にはレッスン室があって、親父のアップライトピアノと、お袋のグランドピアノが並んでた。そんなんだから、物心ついたときには音楽がすごく身近な存在だったんだ。

 
5歳になったばかりのある日の夕方。お袋はレッスン中だったので、いつものようにひとりでリビングでテレビを観てた。たしか月曜日だったと思う。ミスター味っ子が佳境に入るくらいのタイミング*1でレッスンを終えたお袋がリビングに戻ってきてひとこと。
 
いますぐレッスン室に来るならピアノを教えてあげる。
いま来ないんだったら一生教えてあげない。
 
 
そういうわけで、この日からおれは正式に音楽のトレーニングを受け始めたんだ。最初の教則本は「さっこおねえさんといっしょ」。さっこおねえさんというのは、当時のNHKの歌のお姉さん。それで、お袋がピアノを弾きながら「大きな古時計」を歌ってくれたんだけど、曲を聴いていたらなんだか自然に涙が溢れてきて、しまいにはしゃくりあげるくらい大泣きしちゃってた。お袋の困った表情をいまでもよく覚えてる。
 
感受性の豊かな子だねぇ、なんて言われてたけど、もしかするともう発症してしまってたのかもしれない。
 
ピアノは結局15歳、中学校三年生の頃までなんとなく続けてた。最後の発表会で弾いた曲は、Debussyの「ベルガマスク組曲 プレリュード」。最近、ふと思い出してこの曲を聴いてみたんだけど、よくこんなの弾いたな、おれ。
 

 

ミスター味っ子 DVDメモリアルボックス1

ミスター味っ子 DVDメモリアルボックス1

 

 

大きな古時計

大きな古時計

 

 

ドビュッシー:ピアノ作品集

ドビュッシー:ピアノ作品集

 

 

*1:気になって調べてみたら、放送開始は1987年(ミスター味っ子 - Wikipedia)。おれがピアノを始めたのは1983年だから、偽記憶だ。しかも木曜日の放送だって。かと言って、なにを観ていたのか思い出せない(Category:1983年のテレビアニメ - Wikipedia)。もしやおれがピアノを始めたのは1987年、小学校三年生ってこと?機会があったらお袋に確認してみよう。